サウジアラビア・UAE・カタール・イランは、ホルムズ海峡周辺での軍事的緊張が再燃している中にあっても、原油・LNGの輸出をいずれも継続している。この事実は、米国とイランの暫定合意を経て、開戦前に近い1バレル70ドル前後までWTIが戻す一因となった。
ただし、供給が継続していることと、供給が平時の水準に戻っていることは、同じではない。海上輸送量は依然として平時を下回っており、紛争再拡大への警戒感も市場に残っている。この二つの事実——輸出は止まっていないが、輸送は正常化していない——を分けて捉える必要がある。
市場は、供給が完全に途絶するリスクを後退させた一方で、供給が完全に正常化したとも判断していない。この中間的な状態が、70〜80ドルというレンジの上下双方に警戒感を残す背景になっていると考えられる。
先物曲線がバックワーデーションの局面では、期近を売って期先を買い直すロールオーバーのたびにプラスの収益(ロール・イールド)が発生しやすく、この便益が投機勢の参入動機・収益期待を高める方向に働く。一方、曲線がコンタンゴへ近づく局面では、この収益機会が乏しくなり、買い方が新規に参入する動機はそれだけ弱まる。
直近数週間のCFTCデータでは、取組高・ネットロング・Trader数がそろって減少している。量・方向・参加者数という異なる指標が同時に同じ方向を示すとき、同一方向への価格形成につながりやすい。この背景には、次章で扱う先物曲線のバックワーデーション縮小に伴い、ロール・イールドという収益機会が薄れていることがあると考えられる。
取組高・ネットロング・Trader数という複数の指標が同時に減少していることは、一部の大口参加者だけでなく、市場参加者全体の広がりを伴った撤退である可能性を示唆する。ロール・イールドという収益機会そのものが縮小した結果として投機資金が退出しているのであれば、この撤退は材料への反応というより、構造的な収益機会の変化に対する反応と捉えられる。
現在の先物曲線は、5〜6月にピークをつけた急激なバックワーデーションから様変わりした。ホルムズ海峡の再開で原油の供給が一気に増え、短期的には供給過剰の状態にあり、期近のスプレッドはコンタンゴに近づいている。長期の曲線も、5〜6月の水準と比べれば逆ザヤ幅はかなり縮んでいる。
ただし、来年にかけての曲線は、なおバックワーデーションの形を保っている。この点は、目先の供給過剰が一時的なものであり、需要の回復や在庫の積み増しを通じて、来年には需給が再び引き締まる可能性を市場が見込んでいることを示していると考えられる。
期近と長期とで反応の方向が分かれているという事実は、市場が今回のホルムズ海峡再開を、短期的な供給ショックの解消として受け止める一方、中長期の需給ファンダメンタルズそのものは変化していないと評価していることを示していると考えられる。短期の曲線形状だけを見て市場全体の方向性を判断すると、この長期の織り込みを見落とすことになる可能性もある。
2026年6月のWTI原油市場は、ホルムズ海峡再開による供給正常化と、依然として平時を下回る輸送量・紛争再拡大への警戒感が併存する中、70〜80ドルのレンジで推移している。投機勢はロール・イールドの縮小を背景に一時的に撤退しており、先物曲線も短期の供給過剰と長期の需給引き締まり期待という異なる時間軸の力学を同時に映し出している。当面は、この二つの力学(先物曲線が示す需給観測と、投機資金の増減)がせめぎ合う中で、方向感の定まらない値動きが続くと見ておきたい。