Burg Invest Research · Crude Oil Analysis · 2026年2月
核協議前夜の60〜70ドルレンジ——資金流動性の力学が生む上値の重さ
地政学的緊張と外交プロセスが交錯する中での、投機ポジション圧縮と曲線形状の段階的変容
吉中晋吾 🏢 Burg Invest Co., Ltd. 📅 2026年2月 📊 原油
要旨
2026年2月、WTI原油は米国とイランの緊張が高まる中で底堅さを維持しつつも、上値を追う動きは見られず60〜70ドルのレンジ形成が想定される局面にある。市場の方向感を決定づけているのは、地政学リスクそのものよりも、その背後で進行する資金流動性の力学である。本稿は、外交プロセス(核協議)と軍事衝突リスクが併存する不確実性の高い環境下で、投機ポジションの圧縮と先物曲線の段階的な変容がどのように連動しているかを分析する。
キーワード 資金流動性の力学60〜70ドルレンジ核協議ポジション圧縮バランスシート縮小逆ザヤへの移行

1. 外交プロセスと軍事リスクの併存——方向感を欠く市場構造

2026年2月のWTI原油市場における最も重要な特徴は、地政学的緊張が高まりながらも価格が一方向に動かないという「方向感の欠如」である。市場のボトムはタイトに保たれている一方、上値を追う動きは見られず、60〜70ドルというレンジでの推移が想定される。

この膠着の背景には、軍事衝突リスクへの懸念と、外交的解決への期待が同時並行で市場に織り込まれているという構造がある。米イラン両国が核協議という外交的プロセスを継続している限り、市場参加者は方向性を確信した大きなポジションを取りにくい。

評価

外交プロセスが「存在する」という事実自体が、地政学リスクプレミアムの上限を抑制する機能を果たす傾向にある。軍事衝突という最悪シナリオと、外交的解決という楽観シナリオの両方が現実的な選択肢として残っている間は、市場はそのいずれにも全面的に賭けることができない。

2. 資金流動性の力学——価格の底堅さとバランスシート縮小の乖離

2月の投機ポジションデータが示す最も興味深い現象は、価格の底堅さとバランスシートの縮小という、一見矛盾する2つの動きの併存である。CFTCデータでは、底堅い価格水準とは裏腹に、投機筋の資金規模は縮小傾向を示している。

この乖離を理解する鍵が、資金流動性の力学という概念である。リスク回避のセンチメントが高まると市場のボラティリティが上昇し、それが取引証拠金の引き上げにつながる。証拠金の上昇は資金効率を悪化させ、ポジション保有のコストを高める。この連鎖の中で、市場参加者の一部はリスク資産である原油から、より質的な資産(ゴールド等)への資金シフトを選択する。結果として、価格水準そのものが大きく崩れなくても、取組高(ポジションの総量)は減少していく。

評価

価格とバランスシートが逆方向に動くこの局面は、ネットポジションという単一指標だけを見ていては捉えられない。価格の底堅さの裏側で何が起きているかを理解するには、証拠金水準・ボラティリティ・取組高という複数の指標をセットで観察する必要がある。資金流動性の力学が価格形成に与える影響は、需給ファンダメンタルズの分析だけでは説明できない領域である。

3. 先物曲線——順ザヤから逆ザヤへの段階的移行

先物曲線も投機ポジションと同様の温度感を示している。中東情勢の懸念再燃とともに、曲線は順ザヤ(コンタンゴ)から逆ザヤ(バックワーデーション)へと移行しつつあるが、この変化は曲線全体に均一に表れているわけではない。

過熱状態にあるのは、地政学的なホットスポットに敏感に反応する短期の限月である。一方で長期の限月は、供給見通しを素直に反映した形状を保っており、曲線全体としては適正な勾配が維持されている。

評価

短期と長期で温度差が生じているこの状態は、市場が地政学リスクを「恒久的な構造変化」ではなく「期間限定の不確実性」として価格に織り込んでいることを示唆している。この温度差が今後どちらの方向に解消されるか——短期の落ち着きが長期に波及するのか、あるいは短期の緊張が長期へ伝播するのか——が、次の局面を見極める焦点となる。

4. 総括——二つの力学のせめぎ合い

現在の市場は、先物曲線が織り込む供給見通しという力学と、資金流動性が規定する投機行動という力学の、二つのせめぎ合いの中で価格形成が進んでいる。このせめぎ合いが続く限り、60〜70ドルというレンジでの推移が想定される。

今後の監視ポイント
I
核協議の帰趨
外交的進展が確認されれば地政学リスクプレミアムは縮小に向かう可能性がある。逆に決裂すれば軍事衝突リスクの再評価が起きる。
II
資金流動性の力学の方向転換
ボラティリティの低下と証拠金水準の正常化が確認されれば、現在のポジション圧縮局面が一段落する可能性がある。
III
短期・長期曲線の温度差の行方
短期の逆ザヤが長期に波及するか否かが、地政学リスクの市場における位置づけを判断する材料となる。
DISCLAIMER / 免責事項
本レポートは、市場の研究および情報提供を目的としたものです。投資に関する最終判断はご自身でご判断くださいますようお願いいたします。本レポートの利用により生じたいかなる損害についても、バーグインベスト株式会社は一切の責任を負いかねます。
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