2025年7月のWTI原油市場は、米原油在庫が前週比320万バレル減という予想を大幅に上回る減少を記録したことで、60〜70ドルのレンジを底堅く維持した。この在庫減少は単なる需給の一致ではなく、製油所稼働率の上昇と輸出増加が同時に起きた結果であり、物理的な実需の強さを示すシグナルとして市場に受け止められた。
60ドル付近では「サポートのセンチメント」が醸成されつつある。前月(5月)から続く「60ドル買い」というコンセンサスが、この月においても継続して観察される。
320万バレルという在庫減少の規模は、市場予想(約100万バレル減)の3倍以上であった。この乖離の大きさは、単純な需給判断ではなく、サプライチェーン全体の動きを読む必要性を示している。在庫減少の「規模」だけでなく、その「内訳」(製油所稼働・輸出・輸入)を見ることが重要である。
7月の最も重要な構造的変化は、先物曲線がコンタンゴからバックワーデーションへとシフトしたことである。前月までコンタンゴ傾向にあった曲線が、在庫の大幅減少を受けて逆転し、期近価格が期先価格を上回る逆ザヤ状態へと転換した。
重要なのは、このバックワーデーションへのシフトにもかかわらず、「ベーシスに過熱感がない」という観察である。逆ザヤの程度が過度ではなく、現物市場の実態を適切に反映した穏やかなバックワーデーションにとどまっている。
「過熱感のないバックワーデーション」という表現は重要である。これまでに急激な地政学ショックが起きた際のバックワーデーション(例:2022年ロシア・ウクライナ侵攻時)は、ベーシスが急騰し過熱感を伴っていた。7月のバックワーデーションは穏やかであり、これは市場が在庫減少を「一時的なノイズ」ではなく「実需に基づく持続可能なシグナル」として受け止めていることを示す。
7月の投機ポジションで最も注目すべきは、ネット建玉とトレーダーフローが異なる動きを見せる「アンワインド局面」が観察されたことである。この局面では、三つの異なる性質の資金フローが同時に交差していた。
第一に、関税起因の売りへの買戻しである。前月までに形成されていた、米国の関税政策を懸念した売りポジションの解消(ショートカバー)が進んだ。第二に、打診買いである。60ドル付近の価格水準に対して、新規の買いポジションを小規模に構築する動きが観察された。第三に、他資産への資金移動(ローテーション)である。一部の資金が原油から株式・債券等の他資産へと移動した。
三つの資金フローが同時に交差するアンワインド局面は、ポジションの「方向性」だけを見ていては本質を見誤る。ネット建玉(全体のポジション量)とトレーダーフロー(個別の売買の流れ)を分けて観察することで、市場参加者が「何を考えて動いているか」が初めて見えてくる。この局面では、方向性への賭けではなく、ポジション整理が主な動機であった。
7月のアンワインド局面は、前月までに蓄積されたポジションの整理局面として位置づけられる。在庫減少という実需シグナルを背景に、曲線はバックワーデーションへとシフトしたが、過熱感はなく、次の方向性を探る「助走期間」にあると解釈できる。