2024年末、WTI原油は米国のロシア・イラン制裁強化観測を背景にファンドの買いが最大規模に積み上がり、強気相場を形成していた。しかし2025年1月、この流れが一変した。トランプ大統領の就任(1月20日)を境に、エネルギー政策の大転換が市場に影響を与え始めた。
就任と同時にトランプ大統領はエネルギーに関する国家非常事態を宣言する大統領令に署名。続く1月24日にはOPECに対し原油価格を引き下げるよう求めた。この二つの動きは「米国はエネルギー価格の低下を望んでいる」という明確なメッセージとして市場に受け取られ、売りの流れが形成された。
政策リスクが相場を動かす局面では、需給ファンダメンタルズよりも「政策の方向性」が短期的な価格を決定する。トランプ大統領の発言・行動は予測が困難であるため、投機筋が「距離を置く」という選択をしたことは合理的な反応である。ただし政策リスクは一時的なノイズである場合も多く、実際の需給データとの乖離が続くときに巻き戻しのリスクが生じる。
CFTCの投機ポジションデータは、この局面の市場心理を鮮明に示している。マネージドマネーのポジションを中心に売りが加速する一方、Trader数(CFTCへの報告義務を持つ大口ポジション保有主体の勢力数)の動向はミックス状態(強気でも弱気でもない)となっている。
特に重要な観察として、12月24日付レポートで指摘した「ファンドの買いは過去1年余りで最大だが、Trader数が示す勢力分布は買い方を減少させており温度差がある」という分岐が、結果として「Trader数が先行的に相場の方向性を示していた」ことが確認された。Trader数が示す勢力の冷静な変化が、ファンドの楽観的なポジショニングより正確に市場を読んでいたのである。
「ネットポジションとTraderの温度差」は重要なシグナルである。ネットポジションが市場の総量を示すのに対し、Trader数は勢力の広がりを示す。両者の乖離が大きい時、Trader数のほうが市場の実態をより正確に先行して示すことが多い。この観察は2024年12月の分析が2025年1月の展開を先行予測していたことで改めて確認された。
先物曲線は逆ザヤ(バックワーデーション)を維持しているが、昨年末から続いた上昇相場の反転を受けて、ピークアウトから段階的な右下がりの調整が進んでいる。異常値や過熱感はなく、曲線の調整は穏やかな性格のものである。
インターコモディティ(対ブレント・オマーン等の油種間スプレッド)にも大きな変動はなく、全体として落ち着いた状態にある。これは地政学リスクが特定地域に集中していないこと、かつ需給の基本構造に大きな変化がないことを示している。
インターコモディティが安定している局面は、市場全体のバランスが保たれていることを示す。WTIとブレントの乖離が大きくなるときは、地政学リスクの地域的集中や輸送ルートの問題が生じているサインとなる。現状の安定は、トランプ相場の影響が価格水準には作用しているが、市場の構造的な歪みにはまだ至っていないことを意味する。
シティグループが地政学リスクを理由に2025年原油価格予想を上方修正しながら、同時に「トランプ相場の影響で年後半は軟化する可能性がある」と指摘したことは、現在の市場の不確実性を象徴している。同一レポートの中で上方・下方両方のリスクを指摘せざるを得ないという状況は、方向感の欠如を改めて浮き彫りにした。