10月のWTI原油市場を特徴づけたのは、性質の異なる二つの材料が短期間のうちに重なったことである。一つは中東情勢の緊迫化という地政学的な材料、もう一つはハリケーン「ミルトン」の米フロリダ州上陸という自然災害由来の材料であった。性質の異なるこの二つの材料がほぼ同時期に市場へ流れ込んだことが、9月時点で想定されていた「一時的な巻き戻し」を実際に引き起こす引き金となった。
この巻き戻し自体は、価格の一方向的な上昇を意味するものではなかった。中国の需要を巡る根強い懸念が並行して存在しており、上昇局面でも上値を追う勢いには乏しかった。二つの材料が示した上振れ圧力と、中国需要懸念が示す下押し圧力が拮抗する中で、価格は一時的に70ドル台後半まで切り上がった後、想定通り65〜75ドルのレンジへと回帰した。
性質の異なる複数の材料が短期間で重なった局面では、それぞれの材料を個別に評価するよりも、複数の材料が同時に市場へ流れ込んだこと自体が値動きの大きさを規定する傾向にある。中国需要懸念のような継続的な下押し要因が並存していたことが、結果として上振れの勢いを抑制したとも解釈できる。
先月号では、レバレッジドファンドのショート増加に関して、FOMCを控えた市場参加者の一時的な撤退により、ポジションを買い戻すための流動性が十分ではないと指摘した。その上で「材料の強弱にかかわらず、新規売りのレンジを上抜ける場面では損切りが発動することも想定され、瞬間的でも70ドル台後半への巻き戻しも考えられる」との見立てを示していた。
流動性の薄さゆえ、ショートの買い戻しが十分に進んでおらず、材料次第で損切りが連鎖し瞬間的な巻き戻しが起こり得る。
中東情勢とハリケーン・ミルトンを引き金に、損切り連鎖とみられる巻き戻しが発生。その後は米大統領選を控え、投機筋・大衆勢ともにキャッシュポジションの比率を高める動きに転じた。
見立てと似た結果になったこと自体よりも重要なのは、なぜ「そうなった」のかである。損切りの発動は「材料の強弱」そのものより「ポジションの構造(薄い流動性下でのショートの積み上がり)」に規定されていた。今回の一致は、ポジション構造を分析することの有効性を裏付けているとも言える。
米大統領選を目前に控えた現在、市場参加者の行動は新たな局面に入っている。投機筋・大衆勢ともに、方向性の判断を避け、キャッシュポジション(手仕舞い済みの中立的な状態)の比率を高める動きが顕著になっている。
ポジションのキャッシュ化は能動・受動の両面があると考えられる。好機を想定しポジティブな体制づくりを意図する能動性、不透明な展望から一時的に距離を置くリスク管理の面に基づく受動性。直近の市場環境の文脈においては、将来の投資機会への備えと方向性への確信の欠如を示唆する流動性低下とレンジ相場の傾向が見受けられた。選挙結果が明確になるまで、市場参加者の多くは判断を保留する姿勢を取っていると考えられる。
先物曲線を巡っては、ここ数カ月の流れ同様、短期限月と長期限月とで異なる温度感が観察される。直近限月では、米大統領選を警戒した手控えとポジション解消の動きが目立ち、比較的落ち着きのない状態にある。一方、長期の先物曲線そのものは、8月末から9月初旬にかけてのフラット化を経て、緩やかなペースで逆ザヤへとシフトしつつも、水準としては適温の域にある。
この長期曲線の落ち着きは、市場が今回の一連の材料(中東情勢・ハリケーン・米大統領選)を、いずれも構造的な変化ではなく一過性のノイズとして価格に織り込んでいることの表れと解釈できる。
短期限月の振れを、水準の安定した長期曲線と比較する視点を持つことで、目先の値動きが構造変化を伴うものか、単なるノイズかを判別しやすくなる傾向にある。米大統領選という大きなイベントを控える中でも、長期曲線が現状の水準を維持し続けるかどうかが、今後の市場を読み解く手がかりとなると考える。
2024年10月のWTI原油市場は、性質の異なる複数の材料が短期的な値動きを生み出す一方、長期先物曲線が水準を維持し続けるという構図によって特徴づけられる。米大統領選という不確実性の高いイベントを前に、市場参加者はキャッシュポジションを積み増し、判断を保留している。長期曲線が今後も同じ水準を保ち続ける限り、目先の値動きは一過性のものにとどまると予想される。