イエメンの親イラン武装組織フーシ派によるタンカー攻撃で中東情勢が緊迫化する中、ロシアの複数の製油所がドローン攻撃を受けたことで、市場は供給混乱を警戒する形で水準を切り上げた。
これと並行して、米国側の材料も価格を押し上げる方向に働いた。米国のインフレデータが緩和し、直近の原油在庫が予想を上回る約920万バレルの減少となったことで、投機筋のポジション巻き戻しが加速した。供給サイドの懸念(紅海・ロシア)と、需給ファンダメンタルズの改善(米インフレ・在庫)という、本来別の軸にある二つの材料が、同じ月に重なって価格を押し上げた形である。
紅海航行の安全を巡る懸念と、米国の底堅いファンダメンタルズという二つの支持材料が同時に存在する局面では、どちらか一方が後退しても、もう一方が下値を支え続ける可能性がある。この二重の支持構造が、当面のボトムの堅さを規定していると考えられる。
投機筋のロング増加には、性質の異なる二種類が存在しうる。一つは、既存のショートポジションをリスク回避のために解消する買い戻しであり、これは市場見通しの強気転換を必ずしも意味しない。もう一つは、新たな強気判断に基づく新規ロングの構築であり、こちらは市場参加者の見通しそのものが変化したことを示唆する。同じ「ロング増加」という現象でも、この二種類の内訳を見分けることが、上昇の持続性を判断する手がかりになる。
1月のCFTCデータを確認すると、昨年11月以降しばし様子見状態にあったマネージドマネーが、紅海航行の安全を巡る懸念を嫌う形で買い戻しに動いたことがわかる。ロング増の大半はリスク回避目的の買い戻しであったが、一部は新規ロングであり、予想を上回る米経済成長と価格の値頃感を手掛かりにしたものと推察される。またTrader数の推移を見ると、平均72.5ドルの水準で買い方増・売り方減の傾向が続いており、同水準における投機筋の方向性の一致が確認できる。
買い戻しの大半がリスク回避目的であったという点は、この上昇が必ずしも強気相場への転換を意味しないことを示唆する。ただし、一部に新規ロングの構築と、特定水準でのTrader数の増加が併存している点は、押し目買いの意欲が単なる踏み上げにとどまらない広がりを持ち始めている可能性を示している。
1月16日前後、紅海通航を避けるタンカーが増加し始めたタイミングから、先物市場のスプレッドは逆ザヤの傾向を強めた。昨年9月から続いていた下落相場も一服し、市場は改めてボトムを確認する局面に入っている。
一方で、先物曲線の水準そのものは、緊張も緩和もないニュートラルな状態にある。逆ザヤ「傾向」という形状面の変化と、曲線「水準」そのものの中立性は、別の軸として捉える必要がある。
形状の変化(逆ザヤ化)だけを見ると地政学リスクの織り込みが進んでいるように見えるが、水準自体が中立を保っているという事実は、市場がこのリスクを恒久的な構造変化としてはまだ捉えていないことを示唆する。当面は70〜80ドルが適正レンジとして機能し続けると考えられる。
2024年1月のWTI原油市場は、紅海供給懸念と米経済指標改善という二重の支持材料によって70〜80ドルのボトムを確認する局面にある。投機筋の買い戻しはリスク回避が主体であるものの、一部の新規ロングと特定水準でのTrader数増加が、上昇の広がりを示唆している。先物曲線は形状面で逆ザヤ傾向を強めつつも、水準自体は中立を維持しており、この二重の支持構造が崩れるかどうかが、次の局面を見極める鍵になると考えられる。