2025年9月のWTI原油市場は、60〜70ドルのレンジで底堅い推移を続けた。この底堅さを支えた主要因は米原油在庫の2週連続減少である。在庫の継続的な減少は、物理的な実需の存在を示す最も直接的な指標であり、価格の下値を支えた。
もう一つの支援要因はロシアの燃料輸出制限である。ロシアが国内需要を優先する形でディーゼル等の燃料輸出を制限したことで、欧州向けの供給タイト感が生じ、原油市場全体のセンチメントを下支えした。
在庫減少とロシア輸出制限という二つの支援要因は、いずれも「供給側」の変化である。需要側の強さではなく、供給側の制約によって価格が支えられているという構造は、需要が回復した際には相乗効果をもたらす一方、供給制約が解除された際には急速な下押し圧力に転じる可能性を内包している。
9月の投機ポジションデータで特筆すべきは、「60ドル買い」というコンセンサスが市場参加者の間で定着しつつあることである。60ドル台手前でのロング継続という明確なパターンが観察され、地政学ショックのタイミングと重なる場面ではロングポジションが連動して増加する構造が確認できる。
このコンセンサスは、市場参加者の心理的な安心感と能動的な市場参入を促す性質を持つ。「60ドルは買い場」という見方が共有されると、60ドル付近への価格の接近そのものが新規の買い注文を誘発し、実際の需給バランスとは独立した心理的支持線として機能する。
コンセンサスが形成されている間、レンジは安定する。しかし注意すべきは、このコンセンサスを支える前提条件(在庫減少・ロシア輸出制限)が変化したとき、コンセンサスは急速に崩壊する可能性があることである。9月時点では前提条件は健在だが、その維持可能性を継続的に確認することが重要である。
先物曲線は「短期タイト・中長期緩和」という二重構造を維持している。短期(6か月以内)はバックワーデーション傾向を維持しており、在庫減少とロシア輸出制限による現物タイト感を反映している。一方、中長期(6か月以遠)はコンタンゴ傾向を維持しており、IEAが予測する2026年以降の供給余剰拡大を先取りした価格形成となっている。
この二重構造は10月号でも引き続き観察される重要なテーマである。短期の現実(在庫タイト)と中長期の予測(供給余剰)が乖離したまま共存しているという状態は、どちらかの認識が変化したときに大きな曲線の形状変化をもたらす。9月時点ではその分岐点はまだ先にある。
2025年9月の60〜70ドルレンジは、在庫減少・ロシア輸出制限・60ドル買いコンセンサスという三つの要因が重なって維持されている。この均衡が崩れる条件は、在庫が増加に転じること、ロシア輸出制限が解除されること、またはIEAの供給余剰予想が市場コンセンサスとして完全に定着することなどが考えられる。